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むかしむかし、ある村に、人をだます事が上手なキツネが住み着きました。 キツネは夜になると娘に化けて酒に酔った人のみやげをぬすんだり、風呂に入れると言って川や沼に人を入れたりしておもしろがっていたのです。 ある夜の事、キツネが娘に化けて村はずれで待っていると、次助(じすけ)じいさんが通りかかりました。 キツネは道ばたにうずくまって、 「次助じいさん。わたし、お腹が痛くて歩けないの。どうか村まで、背負って下さいな」 と、頼んだのです。 ところがこの次助じいさん、なかなかのやり手で、 「これはこれは、こんな美人の娘を背負えるのは、なんともありがたいこっちゃ」 と、キツネの娘をひもでしっかりと背中にしばり、歩き始めたのです。 村の入口まで来ると、キツネの娘は、 「もう、お腹は治りました。ここからは一人で歩けますので、おろしてください」 と、頼みましたが、次助じいさんは聞こえないふりをして、村の者が集まっている場所まで背負い、 「キツネを捕まえたぞ! みんなでしばりあげろ!」 と言って、村人みんなでキツネをしばりあげると、枯れ草を燃やした煙でキツネをいぶりたてました。 キツネの娘は苦しくて、とうとうキツネの正体を現してしまったのです。 「さて、このキツネをどうしてくれようか?」 「イタズラギツネだ。逃がすわけにはいかないな」 村人たちは相談して、このイタズラギツネをキツネ汁にして食べてしまおうという事になりました。 すると、今までだまって見ていた善作(ぜんさく)じいさんが、 「なあ、殺すのはかわいそうだから、どうか放してやってくれないか」 と、みんなに頼み込んだので、キツネをそのまま逃がしてやる事にしました。 それからキツネは、イタズラを一切やめました。 そしてキツネの恩返しなのか、それから善作じいさんには良い事ばかりが続いて、とうとう村一番の長者になったという事です。 |